愛と怒りと悲しみの

とある理系サラリーマンのばら撒き思想ブログ

「次に提出するときはAではなくBにしてください」という対応に潜む嫌味っぽさの正体

 

例えば、会社の上司が部下から書類を受け取ったときに、何か小さなミスを発見したとする。

それで

「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」

と指導をする。

これがかなりの愚策であるということを、今日の記事で主張したい。

 

この手の「今回は失敗してもいいけど次からは失敗をするな」というやり方は、何も考えずに何となく運用してしまっているケースが多い。

 

実際、「良い上司」であるための定番手段だ。

管理職研修でも「部下の失敗は強く責めない」というのは必ず教えられる。

それで生まれる、一度目の失敗を大丈夫だと許して次の機会に失敗を活かして学習させるというこの手法。

実に理想的でいい上司であるように思える。

 

しかしそこに罠がある。

なぜなら、重大な真理をいくつか投げ捨ててしまっているからだ。

 

 

 目次:

 

 

 

1.一言で言えば「独善的」

何か小さなミスを「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」として一時的に許す行為であるが、それはすなわち失敗を確定させてしまっているという行為と表裏一体である。

 

本来Aであるものを、Bとして持ってきてしまった。

本当にそれは失敗なのか?

そして失敗だとしたらなぜAの方が正しいのか?

 そういう議論が十分になされているケースは実に少ない。

 

上司が「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」という手段を使ってしまうときは、いつだって上司側に余裕がない。

余裕がないからこそ、「今回だけは許す」として片付けてしまう。

「次回から何とかしろ」というのは先送りであり、「今回から何とかする」ことができていなかった。

 

だから、AとBは本当はどちらが正しいのか?という議論に割く時間も大抵の場合で十分ではない。

部下の方だって、一長一短を考えた結果Bを選択したのかもしれない。

というより、誰だってタダで選択肢を選ぶわけがない。

「楽をしたかったから」「よく知らなかったから」と言うのでも立派な理由だ。

 

AとBが、両人がすぐに間違いだと納得できるような単純なものだとしたらどうだろうか?

これはこれでもっとまずいことになる。

 

AとBの差が「小さなミス」であること自体が不幸であり、小さいミスだからこそ、部下はケチをつけられたような気分になってしまう。

これさえ何とかできていれば完璧だったというケースを台無しにされてしまう。

 

「小さなミス」と「簡単なミス」を混同する(あるいはされる)リスクも背負うことになる。

例えば、「158+43=211」という間違いをしたのならば、「足し算もできない小学生以下の人間」という評価が成り立ってしまう。

 

また、「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」という評価はいつだって、上司の側が独断で下す。

これは無意味でハイリスクである場合が多い。

下手をすると、「俺は気に入らないな!」ということをことさらに強調しているだけになる。

常識的な人間関係から考えれば、こういった主張は信頼関係の無意味な浪費であり、黙っていたほうが人間関係は円滑に進む。

 

小さなミスというものは、こんなに危険で繊細なものである。

「小さなミスを許す寛大な俺」を演じて、そう簡単に確定させてしまってはならない。

 

 

2.(一度しか入れないダンジョンで宝箱を取り逃す行為)

部下の側からしてみれば、なんか納得いかない理由で、今回は失敗だということにされてしまった。

 

上司は「次回から何とかしろ」というが、それは圧力になる。

次こそは失敗してはならないという枷になる。

 

そもそも理由だって納得できてないケースならばもうこれで詰みであるし、例え簡単な理由であっても、次回まで覚えておいて全く同じタイミングで修正をするのはそう簡単なことでもない。

 

「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」というのは単純な指令ではあるが、実際のところこれには大きな負担がかかる。

こんな精神状態で、「次」まで上司と一緒にやっていかなければいけないのだ。

 

上司の方としては、ミスを寛大に許すことで信頼関係をつないでいるつもりになってしまう。

しかし部下の方の心理からすれば、時間の数だけ疑心暗鬼が積もることになる。

 

例えば、何か単純労働を外部企業に委託するみたいな場合には、「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」という手法が救いになることはあるだろう。

次も発注してもらえる、という期待で塗りつぶすことも期待できる。

例えば、郵便局の受付に座っている口をへの字に曲げた女が「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」と言ってくれたらそれは救いになるだろう。

もう二度と会わないような相手であり、ミスを見逃してくれるのならばありがたいから。

 

しかし、相手は自分の部下であり、これから一緒になって戦っていかなければならない仲間である。

自社の正社員とは、長い間力を合わせなくてはいけない家族である。

少なくともそういう建前で雇用してサビ残をさせているはずである。

 

 

3.本当にやらなければいけないケア

大体、「失敗」とはなぜ起こるか。

内容を知っていて気を付けていれば回避できて当然なのか?

「言うは易し、行うは難し」であることが、そこら辺の本屋に行けばすぐにわかる。

安全工学とか品質工学の本が山ほど並んでいるから。

 

「失敗から学習し、次からは失敗しない」。

これを繰り返せば10割打者になれるだろうか。

そんな単純じゃないことぐらいは上司の側だってとっくに知っているはずだ。

 

「次から提出するときはAじゃなくてBにしてね!」というのは愚策である。

次回からではない。今回から直さないといけない。

一緒になって理由を考えてだ。

丁寧なケアをして再提出させなければいけない。

 

そうはいっても、時間がないから「今回だけは」といって許してしまう。

そういう状況ならば、もういっそ無視してしまったほうがいい。

あるいは、自分で勝手に手を加えて直した方がいい。

 

次の機会のときに、改めて「今回から」直せばいい。

言うまでもないが、「あの時は俺が手を加えてやったけど」と主張するのはもっと愚策である。