有給休暇の消滅はなぜ許されるのか
会社で勤務しているサラリーマンには有給休暇が与えられるが、2年以内に使用しないと消滅する。
それは何故かと言ったら、労働基準法115条で決まっているからだ。
社内規定にもそのように書いてあるからだ。
法的にそうなっているというのはその通りなのだが、心情的な納得には至らない。
労働者がもらった権利なのになぜ一方的に奪えるのか。
それに、有給休暇は一年で15日~20日ぐらいは貰える。一か月に一日使っていても余裕で余る計算だ。
しかし社内の業務量や雰囲気によって、簡単に休みを取ることが実質的にはできない。
じゃあ休みじゃなくてもいいから買い取って欲しいと訴えても、なぜかこれも労働基準法39条で禁止されている。
「有給休暇はお金をあげるためでなく休んでもらうために与えている(キリッ」と言い張っているわけだが、なんでこんなペテンが社会でまかり通っているのか。
この有給休暇に対するクソルールは、普通に考えればまったくもって納得いかないことだが、一応はそれなりの理屈がある。
「法律でそうなっているから」以外に納得できる理由を探してみた。
目次:
1.有給休暇が消滅する理由(ペテン)
「有給休暇が消滅するのは仕方ないだろう」という主張として、よく使われる理屈を上げる。
なお、これらは全部ペテンであり納得のしなくていいことだから安心して良い。
初級としてよく使われるものは以下の二つだ。
・「何年も使っていない有給休暇を管理するのは事務的なコストがかかるから」
・「5年ぐらい貯めておいて100連休とかやられてしまうと困るから」
まあこれは大嘘だとすぐにわかる。
事務処理的には2年で消滅するという処理をする方がよほど大変だ。
5年ぐらい貯めておいて100連勤とかも、やって何が悪い?という話になる。
有給休暇の連続取得を制限する法律など存在しない。どんな理由でも会社側から有休の取得を却下することは出来ない。
それこそ、「法律でそう決まっているから」である。
そこで、次にはこんな理屈が述べられる。
会社側と親密になって「口では言えない心情」みたいなものを引き出すと、大抵このような答えが出てくる。
・「有給休暇をどれだけ返上するかを社員の評価の一環として使っているから」
・「有給休暇は急病や冠婚葬祭などの非常時に使うものであり、一定以上の日数は持っていても意味がないから」
「有給休暇を使わないで働くのは頑張っているから偉い」という価値観である。
日本で古くから使われている価値観だが、今それを口に出して認めることはハイリスクである。
だから、こっそり使っている。有給休暇の消滅という制度はこの価値観の運用に不可欠なものだ。
別に、消滅させなくても貯めたままの状態でカウントすれば優劣はつけれると思うんだけどね。
そうして論理に詰まってくると、有給休暇そのものの意義について口を出してくる。
急病や冠婚葬祭などの非常時に使うものだから、何十日も持ってても意味がない。逆に、何十日も非常時で休んでしまうのは問題だ、と。
これは言うまでも無く、有給休暇を非常時にしか使えないような現状が問題だ。
もちろん、有給休暇は自由に使えるということも「法律でそう決まっているから」である。
2.有給休暇の買取が禁止されている理由(ペテン)
有給休暇が消滅する理由は、みんなペテンである。
しかし有給休暇の買い取りが禁止されている理由については、いくらかの意義がある。
有給休暇が金に変換できてしまうと、その分だけ元の給料を安くするクソ企業が出てくる。
有給返上を前提にした給与しか払わない企業が出てくる。
確かに有給休暇買取禁止のルールによって、こういう企業の発生が防止されていると思う。
日本だったらこういう企業が出てくるであろうことは容易に想像できる。
だって有給休暇買取のルールがあったらみんな大量に売り飛ばすと思うから。
それぐらい、使うことができない有給がたくさんある。(それがそもそも問題だが。)
そしてその有給の代金の支払いが困難になってきたら、今度は有休の値下げが始まる。
「有給は一日1円でしか買い取りません!有給休暇はちゃんと取得してね?」とか言い出すに決まっている。
結局はこうなるんだから、最初から買取を禁止してしまった方がまだ話が楽だというのはわかる。
ならば法律で最低価格を決めればいいのでは?例えば日当の5割とか。
日当の金額はもちろん完全に把握できているのだから、別に難しいことは何もない。
いくらそれっぽい論理を並べても、そういわれてしまったらアウトである。
それに「例え100円でもどうせ消えるなら買い取ってほしい」という主張も当然のことだ。
一応現行法では会社側と同意すれば買い取りも可能だが、会社側としては何のメリットも無いので多くの企業は断っている。
有休を買い取ってくれと労働者の側から頼んでいるのに、「休みとして使ってほしいから」といって却下するのはどう考えてもペテンである。
休みとして使ってほしいと言いながらも、その有給を消滅させている。
3.唯一正当だと思える理由
そういうわけで有給休暇の消滅・有給休暇の買取禁止はペテンであるが、一つだけ正しいと思える論理はある。
それは「永続した事実状態の尊重」である。
法律に「時効」というものがなぜあるのかを考えると思い当たる。
例えば、「泥棒が警察から50年間逃げきったら無罪になる」というルールが時効である。
こんな犯人に有利になるルールが制定される理由の一つとして、「泥棒さんが50年間も捕まらずに逃げたんだったらそれはそれで一つの人生じゃない?」という解釈だ。
例え法律違反であっても、その状態で長い期間を過ごしたのなら、その期間自体が法律で保護されるべきなんじゃないかという考えである。
Wikipediaには重婚罪の例が載っていた。
例え重婚であっても、何十年も夫婦としてやってきたならそれはそれで歴史を持った夫婦だからだと。もしかしたら1年しか経っていない普通の夫婦状態より尊いものかもしれない。
それを考えてみると、有給休暇の消滅については一応論理は成り立つことになる。
・休みを取らない状態がずっと続いているなら、それが「正常な状態」だと考えることができる。
・無理して休ませることよりも休みなく働き続けることの方が重要だ、という事実が客観的に積みあがる。
日本ではこんなに有給休暇が取得されないかというのは、こういうことだと思った。
逆に保護しなくてはならないぐらい、有給休暇を取らないことが常態化しすぎたから。
そう考えると、組合と結託してでもまとまった有休をとらないとヤバいのかもしれない。